ちっちゃな親切、大きな迷惑
■その女性はぼくの目の先、約35メートル付近で、突然倒れた。歩道と道路には15センチくらいの段差があり、それを踏み外したようだ。手に提げていた白いビニール袋から、大根とリンゴとミカンとゴボウ、そしてツナ缶が道路に転がっていた。
女性は20代に見えた。赤いセーターの上に黄色いダウンを羽織り、ジーンズをはいていた。長い髪が前に、ばさりと垂れ、顔が見えなかった。
きっと、膝を打つか、手のひらをすりむいたかして痛がっているのだろう。その痛みに顔をしかめているのだろうと思った。
「大丈夫ですか?」
ぼくは声をかけて、散らばっているミカンやリンゴを拾ってあげた。そうしながら、もう一度声をかけた。女性はうんうんとうなずいていたが、そのうち膝を払うようにしゃがみ込み、そして落ちていたものを、すみませんといって拾い集めて立ち上がった。
女性は、オバンだった。かなりしわくちゃだった。60過ぎだった(そう見えた)。
だからといって差別してはいけない。ぼくはもう一度大丈夫ですかと訊ねた。彼女は「ご親切にどうも」といった。それから足を引きずるようにして帰っていった。
ぼくはしばらく見送って歩き出したが、もし、彼女がオバンでなく、しわくちゃの60過ぎでなく、20代の可愛い女の子だったらどうしただろうかと考えた。
きっと、ビニール袋を持ってあげただろう。家はどこかとしつこく聞いて、相手がいやがるのも構わず、どうしても教えろと迫り、結果彼女は観念して、自宅を教える。ぼくは恥ずかしいと思っている彼女の肩を抱くようにして歩き、何度も大丈夫? 怪我はしなかった? と聞くだろう。
そのうち、彼女のアパートかマンションに辿り着く。当然、彼女は独り暮らしでなければならない。ぼくはすりむいた手と膝の手当をしてやるからと、強引に部屋に上がり込み、薬を探して、たいしてすりむいてもいない手のひらに塗ってやる。(おそらくその薬は、オロナインだと思う)
それでその手をそっと引っ張って、目を見つめ、唇をよせて……。
な~んちゃってことを想像しながら喫茶店に行ったのであった。
それにしてもあのおばさんは、ずいぶん早足で帰ったなあ。ひょっとしたらトイレに行きたかったのかもしれない。だから、急ぐあまりすっころんでしまったのかもしれない。今、思い出すと、きっとそうかもしれない……。
■短編91枚を送ったが、案の定、長すぎるといわれた。せめて20枚削ってくれといわれた。ああ~大変だ。ただ削りゃいいってもんじゃないからなあ。でも、せっせと直すしかない。セッセッセッセッセ・・・・せっせ・・・ッせっせと。
by kingminoru | 2005-01-18 14:15 | 小説家(小説)