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孤独な彼女

■坂の途中に小さな公園がある。
 小さな滑り台とベンチがひとつ。親子がキャッチボールをやったり、サッカーボールを蹴り合ったり、よちよち歩きの子供を遊ばせたりしている。
 そして、その公園の片隅に、白と黒の体毛を持った猫がいる。雌か雄かわからない。

 仮に彼女とする。なぜなら子供と思われる猫を連れていることがあるからだ。
 しかし、それは長くはつづかない。いつの間にか一匹減り、また一匹と減ってゆく。気づいたときには彼女しか残っていない。

 ぽつんとひとり、彼女は公園の片隅に背を丸めてうずくまっている。人間がひとりもいないときにはベンチの上で日向ぼっこをしたり、昼寝をしている。
 そばにはフェンスに囲まれた鉄塔があり、その下には小さな稲荷舎がある。公園の前の坂道は大きな道ではないが、車の往来が頻繁だ。その道の向こうに歩道があり、歩道の脇には階段がある。階段の先は行き止まりだ。
 彼女はときどき、その階段の先の、行き止まりの小さなスペースにいることがある。

 春先には5匹の子猫といっしょにいた。
 だが、その子猫たちはいつの間にか地上から姿を消していた。歩道と公園の間に横たわる坂道で轢かれてしまったのだ。新しく生まれた猫たちは、そうやって短い一生を終える。

 彼女はどうやって生き延びているのだろうか?
 近所の誰かが餌を持ってきているようだ。その形跡がある。だから、彼女は自ら進んでゴミをあさるようなことはしない。じっと餌を与える人が来るのを待っている。

 二月前、彼女は3匹の子猫たちといっしょにいた。暑い日射しを避け、涼しい木陰で毛繕いをしたり、子猫たちを舐めてあげていた。
 だが、一月の間に一匹が行方不明になり、一匹が例によって轢き殺された。残る一匹は黒猫だった。黒猫は次第に大きくなってゆき、彼女と変わらないほどになった。

 彼女はいつもその黒猫といっしょにいた。ときにベンチの下や上に、ときに鉄塔を囲むフェンスのなかに、そしてあるときは階段の上で下を通る人間を静かに眺めていた。
 黒猫は車がどれだけ恐ろしいものであるかを彼女から教わったらしく、坂道に横たわる〝地獄〟の車道をうまく往き来していた。
 
 彼女はようやくひとり(一匹)ではなくなった。いつもそばには黒猫がいた。雨の日も風の日も、そして夜も昼も。いつも二人は寄り添うように生きていた。

 だが、ある朝、坂道からあと30センチで公園という場所で、黒猫はまるでそこがゴールだったように、右前脚を大きく前に延ばしたまま息絶えていた。下半身は血にまみれ、アスファルトには彼女のはらわたが飛び散っていた。

 また、彼女はひとりになった。(実話です)

by kingminoru | 2006-10-18 16:23 | ワンコ&ニャンコ